鍼師が内家拳を学ぶ意味とは

 鍼師は必ずしも武術を学ばなければいけないというわけではありませんが、武術を学んではいなかった楊甲三先生も、門派に伝わる独自の呼吸法と指の鍛錬はしておられました。鍼は指の功力で刺すものなので、結局のところ指の鍛錬は欠かせません。そこで有効なのが、内家拳の鍛錬です。

 形意拳、太極拳、八卦掌のいわゆる内家三拳に加えて、意拳も内家拳に加えてかまわないと思います。これら内家拳に共通するのは、指の功を練るということと、内功を練るということです。武術で鍛えた指の功と内功は鍼に応用すれば非常に治療効果を高めることができます。

 また、指の功を鍛えると刺すときの勢を作ることができます。鍼を刺すときの勢というのは別に勢いよく刺すという意味ではなく力の集中と方向性を作るということですが、それだけではありません。ただ、これは言葉で説明できるものではないので説明はしません。

 内家拳を鍛錬することでさらに鍼の治療に応用できる技術が、太極拳で言うところの聴勁と粘黏勁です。聴勁は触れた部分の力の状態を感じ取る技術で、粘黏勁は聴勁で読み取った力に応じて相手に貼り付くように密着する技術です。

 聴勁を覚えると鍼を刺そうとしている部分の状態を読み取れるので、鍼を刺す適切なタイミングを図れます。粘黏勁ができると、患者さんが不意に動いた時にそのままついていけます。

 例えば半身不随の治療をしていると患者さんが不随意に動いてしまうことがあります。刺す前ならば手を離せばいいだけの話ですが、鍼先を既に皮下に刺しこんでいる時に手を放してしまうと鍼の勢が途切れて治療効果が落ちるし、患者さんの体に傷をつけてしまうリスクもあります。しかし粘黏勁ができれば鍼を刺した状態のまま患者さんの動きについていけるので刺すときの勢を殺さずに済みます。

 ゆえに内家拳を学ぶことは鍼師にとってとても有用なのです。ちなみにここで言っている鍼は、当然のことながら中国鍼のことです。