本物は訓練しないと理解できない

 茅場町に錦江飯店という上海料理の店があります。ここは、上海の有名ホテルが出店している料理店です。錦江飯店の料理は、日本で一般的な「中華風料理」ではなく本物の中国の料理です。つまり、中国で暮らしたことがない日本人の口には合うはずがないのでお勧めしません。

 毎年正月に芸能人格付けチェックという番組が放送されます。その中に高級ワインと安いワインを飲み比べてどちらが高級なほうが当てるというのがありますが、ワインを飲みなれている人以外は外しますね。でもそれ仕方ないんですよ。本物の味っていうのはそのうまさを理解するまでに訓練が必要です。ワインの場合、訓練されてない人は口当たりがいい飲みやすいほうをうまいと感じる。だから安い方を選ぶのは当然なんです。

 中華街の料理を代表として、日本で一般的な「中華風料理」も酸苦甘辛鹹の五味を全部控えめにして口当たりをよくした中途半端な味のものが主流であり、そういう食べやすいものが日本では「おいしい」と言われるわけです。よく中国旅行に行った人が中国の料理はおいしくなかったと言うのはそのためです。

 要するに小学生に本格的なインドカレーとボンカレーの甘口を食べさせたら大抵ボンカレーをうまいというのと同じことです。まあ辛さ控えめの「ピリ辛四川料理」を本場の味とか言ってるんだからどの程度のものか推して知るべしとも言えます。

 ところが、本物のうまさを知ると日本人の舌に合わせたものなんかうまいと感じられなくなってしまうので、私は日本ではめったに中華料理を食べに行くことはないです。自分で本物に近い料理作ったほうがうまいですから。

 鍼灸も同様で、日本の鍼も刺激を控えた「痛くない」ことだけがウリ文句のぬるい治療になっています。私の中国鍼の治療を初めて受けた患者さんが「日本の鍼とまったく違いますね」と驚いていのはつまりはそういうことです。本物のよさを理解できる人は少ないけれど、本物を知ってからは偽物には戻れません。