中医学は断食を推奨しない

 俳優の榎木孝明さんが30日間の「不食」を行ったとして話題になりました。どうやら宗教的な修行としてものを食べないのが「断食」、宗教的な要素を含まず、自らの意思でものを食べないのが「不食」というらしいですが、そんな言葉の定義などなどうでもいいです。

 榎木さんは病院で医師の指導と体調管理の元、水、お茶、コーヒーなどの水分は摂取し、血糖値を保つためにアメだけはなめるという生活を続け、その間も仕事はなさっていたようです。

 ご本人は様々な体の変化を実感したようで、満足そうな様子でした。それはご本人にしかわからないことなので、実際そのような変化はあったのでしょう。ただ、外見的にはすっかり頬が痩け、ご本人が言うような健康さは感じられませんでした。

 水分と糖分を摂っていたならば、30日ぐらいは死なずに済むでしょう。しかし、その間体は体内の脂肪を消費し、脂肪がなくなると筋肉を構成する蛋白質を分解してエネルギー源とします。つまり、自分で自分の体を「食って」いくという状態にあるわけです。「食う」だけのものがなくなればあとは死ぬだけです。

 また、人間の体は古い骨を壊して新しく作るという「骨代謝」を行っています。骨はカルシウムとコラーゲンなどでできていますが、食事をしないで骨の原料となるものがなくなれば、骨は壊されるだけで新しく作られないので、骨粗鬆症になります。

 中医学では人間の体は飲食物から精を吸収し、外気から清気を吸収して体内でいくつかの気に作り変え、それを利用して生きていると考えます。これは実のところ食べ物から栄養を摂取して、呼吸から必要な気体を得ているという西洋医学の考え方と何ら変わることがありません。ただ概念として「精」や「気」という言葉を使っているだけです。

 ゆえに中医学には断食、もしくは不食が健康のためにいいという考え方をしません。日本には「断食健康法」のたぐいを「東洋医学」の考え方だと主張する者もいますが、彼らが言う「東洋医学」には少なくとも中医学は入りません。彼らの言う「東洋」がどこを指しているのかは不明です。

 もちろん、熱を出して体が受け付けない時、胃腸の調子が悪い時などに、無理に食事を摂るひつようはありません。そこで「食事を控える」ぐらいのことはかまわないのです。また、1日2日程度の「プチ断食」のたぐいは自己満足以外には対して体に影響を及ぼさないので、やりたければやってもいいと思います。

 ただ、榎木さんご本人も警告しているように、ダイエットのため、健康のためなどに断食なり不食なりをするのはやめたほうがいいでしょう。